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奈良地方裁判所 昭和48年(ワ)182号 判決

原告

黒田重治

被告

住友ベークライト株式会社

右代表者

永松孝信

右訴訟代理人弁護士

小西敏雄

外一名

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二そこでまず被告が前記網戸を製造したか否かにつき検討すると、〈証拠〉を総合すると、一応同網戸ないしその包装には被告の商号、被告の登録商標と推測される「すずむし」なる商品名および被告所属の住友グループのマークが表示され、その原材料の一部と推測される「スミコンVM―一八一四D」の製造も被告においてなされていたことの各事実を推認しえないではない。しかしながら他方において、証人K、同Nの各証言を総合すると

(1)  同網戸の製造は前記訴外会社が昭和四三年ごろドイツのレイハウ社と技術提携をしたことを端緒に、右訴外会社において開始され同社の方から同四四年夏ごろ、被告に対し製造された網戸の販売を依頼し、同年一二月に同社と被告との間に継続販売契約が締結されるに至つたものであつて、両社間に請負関係は認められず、右契約によると、同社において被告以外に販売することもできることになつており、また同社は製造後の網戸をケースに入れ包装までして納品し被告は右包装に前記商号、マークを附して販売していたこと。

(2)  被告は昭和四五年三月ごろ、原告から右販売品が原告の実用新案権を侵害する旨の通告を受けたので製造元である前記訴外会社に連絡した結果、同社は昭和四五年四月三〇日原告より本件実用新案の権利範囲に属する商品の製造・販売につき通常実施権の許諾を得、同社が製造開始した昭和四四年一二月より昭和四五年六月までの実施料金二〇万円を原告に支払い被告は訴外会社が通常実施権を得た旨の報告を受け安んじて右実施品を譲り受け他に販売したものであつて右実施権許諾契約締結の際原・被告および訴外会社間にそのことは当然前提になつていたと推認されること。

以上の各事実が認められ、これらの事実に徴すると右網戸は被告の製造でなく訴外会社の製造にかかることが明らかであつて、被告が、その原材料を製造のうえ訴外会社に提供していたとしても、ただそれだけの事実から被告を同網戸の製造主体と評価することはできないものといわなければならない。

三次に被告の前記網戸販売行為について検討すると前記認定した事実からすれば、右販売は本件実用新案の正当な通常実施権者である訴外会社が適法に製造したものを適法に譲り受けたうえなされたもので、原告の訴外会社に対する通常実施権の許諾は当然これを含んでいると解すべく、被告の右行為もまた原告の実用新案権をなんら侵害しない正当行為として評価されるべきものであり、被告には原告の権利を侵害する故意も過失も存しなかつたというべきである。

四ところで、原告はさらに前記通常実施権設定契約は無効に帰した旨再抗弁するけれども、訴外会社の昭和四五年七月一月以降原告に対する実施料不払の事実はそれのみではいまだ右契約の効力になんら影響を及ぼさないことが明らかであり、証人久徳真敬の証言に徴すると原告が契約無効の通告をなしたのは本件実用新案権消滅後のことであることが明らかであるから右再抗弁は失当である。

五よつて、その余の判断をするまでもなく原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(岡村旦 岩川清 柳沢昇)

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